2014年5月号 <キーパーソン>

秋元 久雄 氏

キーパーソン

顧客接点は一気通貫型が理想
業界の異端児が拓く「サービス一体型」モデル

平成建設
代表取締役社長
秋元 久雄 氏

分業化によって繁栄した産業は数多い。しかし、「作り手」と「買い手(エンドユーザー)」の物理的、心理的距離が広がり、顧客接点が有効に機能しにくい課題も浮上している。その典型例である建設業界で、設計から営業、現場、アフターサービスまでのすべてを内製化するビジネスモデルを確立した。

Profile

秋元 久雄 氏(Hisao Akimoto)

平成建設 代表取締役社長

平成元年、静岡県沼津市に平成建設を創業。正社員を多能工として養成し、建築プロセスの内製化を実現。大学の新卒者からも大工や職人を募集しており、就職人気も高い。こうした異色の経営はさまざまなメディアで取り上げられている。

──建設業界の現状と課題を教えてください。

秋元 高度成長期に住宅、建築需要の急増を背景に、スピードや効率化を重視して分業が進みました。設計を専門に担う設計事務所、営業や現場監督を中心とするゼネコン(総合建設会社)、大工作業やメンテナンス業務を行う下請け・孫請け業者という分業構造が一般的となっています。こうした結果、顧客から現場までの距離が遠くなり、情報の行き違いが生じたり、現場ではお客様のニーズより元請業者の意向ばかりを重視するという状況となってしまいました。

 市場が成熟した現在、お客様の個別対応や品質管理がより強く求められていますが、従来型の分業体制ではそのような対応が難しい。私自身、17年間建設業界で営業に携わる中でそうした状況にもどかしさを感じ、独立しました。

──大学生を対象とした人気企業調査で常に上位にランキングされているという御社の特徴は何でしょうか。

秋元 営業から設計、現場監督、大工作業、アフターメンテナンスまでを一気通貫で提供しています。事前の要望からアフターメンテナンスまで、あらゆるタッチポイントで生の声を聞き、お客様の生活はもちろん、人生設計までを考慮したデザインで“オーダーメイドのサービス”の提供を目指しています。

 自分が本当に望んでいる住宅の形態を把握していないお客様は多くいます。希望するライフスタイルまで踏み込んでヒアリングをしたうえで、こちらから住宅の形態を提案するには、お客様と接するタッチポイントすべてで人材育成が必要です。

──従業員がそれを実現するために必要な能力とは。

秋元 傾聴力、創造力、提案力です。これらを発揮するには顧客とのコミュニケーションスキルが必要です。従業員にとって、当社は授業料も教材費もいらない学校のようなものです。身近な先輩の背中を見て、技術力もお客様を向くことの大切さも学んでいきます。

──アフターケアはどのようにされていますか。

秋元 大衆向けの商品を販売する企業にはアンケートやCS調査も有効だと思います。ところが、全体の評価を把握するための顧客満足度や業界ベンチマークだけで“その人に適した住処”が完成したといえるでしょうか。使い勝手は、その人のライフスタイル、性別や身長、年齢によっても異なるもので、一律ではないからです。アンケートに本音を書かないお客様も多くいます。建てて引き渡しをしたら終わりではなく、定期的に担当者から「その後、不便なところやお困りの点はないですか」と、訪問や電話でヒアリングしています。

──他社が真似しない理由は。

秋元 ゼネコンなどから受託しないということは、下請としての仕事が無くなるリスクも抱えます。加えて、人が育つまでに10年、組織が形成できるまでには20年かかります。日本の建設業界を再生する気概で、これからも人材育成に努めます。