2013年4月号 <今月のキーワード>

今月のキーワード

今月のキーワード

アドボカシー・マーケティング

 京都に単身赴任していた頃、仕事の疲れを癒しに近所の銭湯に行くことが楽しみだった。しかしある日、よく通っていた銭湯が閉鎖となり、別の銭湯は少し遠いので楽しみのひとつがなくなりそうになっていた。

 そんなとき、助けてくれたのがMKタクシーだった。タクシー激戦地区の京都で、かつ差別化が困難な市場において後発ながら業績好調なタクシー会社だ。「アドボカシー・マーケティング」を実践して他社と差別化している企業と言えば同社があてはまるであろう。

 アドボカシー・マーケティングとは、「目先の利益に捉われず、徹底的に消費者側に立ち、顧客との信頼関係を中心にしたマーケティング手法」だ。長期的視野に立ち、「損して得とれ」「先義後利」の考えを実践することである。

 どんな近場でも嫌な顔することなく丁寧に対応する応対品質、一度電話登録すると2回目からはコールセンターに電話して「自宅前に着てちょうだい」で通じる、いわば顧客のお抱え運転手のような数々の対応を、会社全体の仕組みと運転手の応対で実現しているのだ。

 話を銭湯に戻そう。マンションに帰宅してMKタクシーのコールセンターに電話をする。ナンバーは登録されているので「マンションまで1台お願いします。」と言うだけだ。しばらくするとセンターから電話がかかってくる。「タクシーが到着しました」。マンションの前に出ると、正装した運転手がタクシーのドアの前でお迎えしてくれる。「お待ちしておりました。頭にご注意ください」と言われながらVIP気分で乗り込む。

 「車内の温度はいかがでしょうか?」「大丈夫ですよ」という会話をしながら、10分もかからない近距離を走り、外からドアを開けてもらい「行ってらっしゃいませ」と送り出してもらう。初乗り運賃でも嫌な顔ひとつしない。帰りも電話で「自宅まで帰ります」と言うだけだ。平日の銭湯がプチ贅沢な気分で楽しめるのもMKタクシーのおかげだった。

 こうした体験を重ねると、街で流しのタクシーを拾うときも選別して拾うことになる。MKタクシーはJRの乗り場には入れないのだが、わざわざ歩いてその乗り場に行く。アドボカシー・マーケティングで虜にされたのだ。

 企業におけるお客様センターは利益に即時、直結しないコスト部門的位置づけだが、アドボカシー・マーケティングの考え方にのっとると、将来の収益の大きな源泉と位置づけることも可能ではないだろうか。是非とも取り入れたい考え方である。

(ISラボ代表 渡部弘毅)