2013年6月号 <今月のキーワード>

今月のキーワード

今月のキーワード

カスタマーエンゲージメント・マネジメント

 プロダクトアウトからマーケットインへ、製品主導から顧客主導へ。企業戦略変革の重要性が叫ばれてすでに久しい。データベース・マーケティングやCRM、ワン・トゥ・ワン・マーケティングなどの手法もすでに実践されている。そうしたなか、顧客との新たな関係づくりのコンセプトとして登場したのがCEM(Customer Engagement Management)だ。

 こう書くと、「また、学者やコンサル会社、IT会社が根本は変わらないのに言葉だけ代えて、新たなコンサルやITインフラを売り込もうとしているに違いない!!」と思われがちになる。確かに顧客主導を推し進めるといった根本は変わらないが、「顧客とのコミュニケーション環境が劇的に変化したために今までの発想では通用しない」というパラダイムシフトをまとめて表現しているのがCEMと考えるべきだ。

 そのパラダイムシフトの背景は、ソーシャルメディアの登場に起因する。かつて、インターネットの登場により、顧客と企業はダイレクトにコミュニケーションする機会が増えた。顧客にとっては企業に対して直接モノ申すルートができ、逆に企業は直接かつ双方向でニーズに沿ったコミュニケーションが可能となった。企業は顧客から提供された情報に基づいて100万人の顧客に100万通りのコミュニケーションをすることが重要な施策となったのだ。

 ところが、ソーシャルメディアの浸透により顧客と企業の会話はほぼすべて公開情報と化した。「企業と顧客の会話を周りの多くの顧客が見ている」という状態だ。さらに重要なことは、顧客同士の会話が企業や商品を評価する際に、極めて大きな要因となってきたことだ。企業から発せられるメッセージよりも友達同士のコミュニケーションの方が商品選択への影響をおよぼしているという状況である。

 こうしたネットワークの中では、企業は100万人の顧客に100万通りのコミュニケーションをとることより、100人の生活者と正直かつ誠実にコミュニケーションし、「絆」——すなわちエンゲージメントを築きあげていくことが重要になってくる。これがCEMの考え方だ。

 こうなるとコールセンターの役割も変わってくるであろう。今までは効率化の名のもとに顧客との会話をいかにネットにシフトするかが重要施策であったが、電話での生活者との会話をチャンスと位置づけ絆を築き上げる重要な部門に進化していくのではないだろうか。

(ISラボ代表 渡部弘毅)