2022年11月号 <市界良好>

市界良好

<著者プロフィール>
あきやま・としお
CXMコンサルティング
代表取締役社長
顧客中心主義経営の実践を支援するコンサルティング会社の代表。コンタクトセンターの領域でも、戦略、組織、IT、業務、教育など幅広い範囲でコンサルティングサービス及びソリューションを提供している。
www.cxm.co.jp

テンプレートの誤用

秋山紀郎

 「テンプレートがあります」と聞くと、とても響きが良い。準備ができており、効率的かつ順調にできるイメージがある。しかし、テンプレートに頼りすぎて、失敗しているケースも散見される。

 あるコンサルティング会社がシステム提案のアピールで使っていた。その業務向けにカスタマイズ済みのテンプレートがあるため、短い期間と少ない作業工数でシステム構築ができるという内容であった。しかし、ふたを開けてみると、そのテンプレートを読み解きながら、Q&Aセッションを繰り返す会議が長期にわたって続いた。顧客企業の担当者はテンプレートの適合性に疑いを持ち始め、テンプレートの妥当性を説明する側は防戦一方になった。結局、要件定義が半年以上続くことになり、プロジェクトは失敗の道を歩み出したのである。テンプレートの内容を理解する要員がいない中、プロジェクトが開始されたことと、そもそもそのテンプレートが顧客企業の業務に適合していなかったことが原因であった。

 コンタクトセンターのちょっとした顧客対応においても、テンプレートが使われる。お客様がキャンセル可否について問い合わせたケースを紹介しよう。お客様が「あさってまでであれば、今回、キャンセルできるのですか」と尋ねると、「ご利用開始の48時間前までであれば、キャンセルは無料とさせていただいています」と返答された。問い合わせに対してテンプレートで回答しているが、「あさって」と「利用開始の48時間前まで」は、同じ意味ではない。オペレータはテンプレートを読み上げているから、言っていることは正しいかも知れないが、問い合わせに正面から回答しておらず、お客様が意味を取り違えるリスクが高い。

 メールなどのテキストによるコミュニケーションで、回答文にテンプレートが使われるケースは昔から多いが、私の場合、テンプレートだと分かると、顧客として大事に思われていないような気がしてしまう。

 先日、通販サイトで注文した商品が、発送済みとなった後、配送が遅延しているとの通知が届いた。2日待っても届かないため、いつ届くのか不安になり、「荷物はいったいどこにありますか?」とチャット窓口に尋ねた。オペレータから、配送遅延に対する謝罪のテキストメッセージがあり、「今後同様の問題が発生しないよう、配送業者に申し伝えさせていただきます」と付け加えられた。私が尋ねた荷物の場所についても、新たな配送予定日の回答もなく、再発防止だけの約束が返ってきた。もしかしたら、相手はボットだったのかと疑いたくなるほど、コミュニケーションが成立していない事例である。恐らく、こちらの質問をきちんと読んでいないか、チャットオペレータが回答テンプレートを選択ミスしたのだろう。いずれにせよ、話がかみ合わないと、こちらの心象はとても悪い。

 生産性向上のためにテンプレートを活用することに異論はない。残念なのは、テンプレートを適用するシチュエーションが適切でなかったり、テンプレートの選択ミスをしてしまっているケースが多い点にある。テンプレートというせっかくの技が仇とならないよう、適切な利用をお願いしたい。