2023年7月号 <特集>

特集扉

つながる、解決する、勧める
「経営貢献KPI」マネジメント

Part.1 <現状と課題>

応答率やCSだけで貢献度は示せない!
センターの価値を高める「指標」の操作術

「先月の平均応答率は95%です」「お客様は対応に満足しているはずです」という報告で、センターが経営に貢献していると満足する経営者は少ないのではないだろうか。顧客対応がどのように収益に寄与しているのか、その「価値」を具体的に示さなければ、そこで働く人材の優秀さや可能性に目を向けることも、教育に投資する対象にもなりにくい。データをもとに価値を可視化し、価値を高める手法を検証する。

 コールセンターの経営貢献を示すための考え方と手法について解説する。

 コールセンターの業績は、CSやNPSだけではなく、より収益に直接相関するデータで示したい。

 CSと収益の相関性については、専門家や識者の間でも議論が分かれている。測定手法次第では「ほとんど関連がない」という事例もある。とくにコールセンターでのCSは「問い合わせしてきた一部の顧客」の満足度なので、収益との関連性を実証するのは難しい。対応に満足した顧客の「その後の購買行動」まで追跡調査しないとならないが、そこまで実践している事例は数少ない。

 CSと収益の相関性は、コンタクトリーズンごとに検証したい。のように顧客および企業にとっての価値をベースに分類すると、時間をかけてコミュニケーションを重ねることでロイヤルティを高められるコンタクトリーズンについては、徹底的に対話機会を増やしていくことが収益増につながることがわかる。

 成果を具体的な数字で可視化し、ITをはじめとした投資の必要性をロジカルに説明することは、あらゆるコールセンターのトップマネジメントが担うべきミッションだ。

図 コンタクトリーズンを分類する「VIマトリクス」

図 コンタクトリーズンを分類する「VIマトリクス」

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Part.2 <ケーススタディ>

アウトバウンド、サービスレベル向上、コスト削減
センターの価値を高める3社の挑戦

顧客の「困った」を、音声や文字という最小限の手間とコストで解決する。本来、コンタクトセンターはこれだけでも十分に経営貢献している。しかし労働集約という性格上、人件費へのシビアな見方は相変わらずで、経営からコスト圧縮要求も高い。利益を生む/可視化できる構造の転身を図り、経営からの期待に応える3社の取り組みを検証する。共通点は、徹底した数字へのこだわりと、数値を現場のモチベーション喚起に活用している点だ。

CASE STUDY 1:DHLジャパン

「サービスレベル」維持はグローバルの至上命題
緻密なWFMで実践する経営貢献の示し方

 国際物流大手のDHLジャパンのコンタクトセンターでは、高いコミュニケーション力をさらに活かした、アップセル/クロスセルを20年近く実践している。

 具体的には、集荷依頼の電話をかけてきた相手に、保険の案内や配達時間指定といった有料の付加サービスを案内。アドバイザー(オペレータ)は、配送先や荷物の中身などをヒアリングするなかで、利用者にとって適切なサービスを説明している。また、このヒアリングをベースに、営業部門へつなげるセールスリードも実践。継続利用に発展しそうなセールスリードを何件引き継げたか、引き継いだ結果の売り上げを数値化し、経営層に定例報告も行っている。

CASE STUDY 2:アソビュー

「自動化」投資の必要性を精緻に算出
CX向上とコスト削減を両立した“CRE”の成果

 レジャー体験予約サイト「アソビュー!」を運営するアソビューのカスタマーサポート部門は、数字を使ったロジカルなレポートを示すことで経営層から盤石の信頼を得ている。カスタマーサポート部門では、毎月の事業計画をもとに、問い合わせ件数の予測と管理を行い、外注費用を算出している。予実差の分析から課題や施策を検討し、計画的なコスト削減を進めている。

 こうした一連の取り組みを、スムーズに進行するためにCRE(顧客信頼性エンジニアリング)という専門職も導入している。カスタマーサポートに蓄積したVOCをもとに、自動化ツールの開発を進め、CX(顧客体験)改善を図った。チャットボットの導入とFAQの整備により、入電数は84%も減少。メールによる問い合わせは、80%減という結果を出した。経営層をはじめ社内からは、大きな反響があった。

CASE STUDY 3:大嶌屋

アウトバウンドの「やる気スイッチ」とは──
成績上位者に割り当てられる“見込み度”の高いリスト

 食品通販事業を展開する大嶌屋のカスタマーセンターは、テレビCMを起点にしたインバウンドだけではなく、アウトバンドにも注力して受注や、定期購入者数の増加を図っている。

 毎日の売上金額、コール数などを細かく把握して、日々の「管理職朝礼会議」で確認するなど、経営とカスタマーセンターの距離は近い。センターの動向をもとに、事業戦略の立案もしている。

 アウトバウンドは生産性を第一に考え、架電リストの分析を徹底する。過去の購入者を購入回数別に、「1回」「2〜9回」「10 回以上」の3グループに分けてリストを作成。ロイヤルティの高い顧客リストは、確実に受注するためにもベテランが対応する。成績を上げることで、“超重要リスト”を付与されることも、オペレータにとってのモチベーションにつながっている。