2023年8月号 <元ファーストクラスCAの接客術 “おもてなし力”の磨き方>

“おもてなし力”の磨き方

<著者プロフィール>
筑波大学・神田外語大学客員教授。Global Manner Springs代表。慶應義塾大学卒業後、日本航空(JAL)の先任客室乗務員として30年間乗務。機内アナウンスに定評があり、JALの機内アナウンス指導クリニック創設者でもある。1987年、皇太子殿下・美智子妃殿下特別便に選出され乗務。現在、大学や医療機関、介護施設、官公庁や企業に講演や研修を行う。著書「JALファーストクラスのチーフCAを務めた『おもてなし達人』が教える“心づかい”の極意」(ディスカバー・トゥエンティワン)「幸せマナーとおもてなしの基本」(海竜社)

「表情」を顔に出さずに
「感情」をコントロールする接客術

江上 いずみ

 お客様にお茶を出すとき、名刺を交換するとき、取引先に書類を渡すときなどは、相手の目を見て挨拶し、「物」をしっかり手渡して、再度、相手の目を見て「よろしくお願いいたします」などの言葉をかける──この一連の「目→物→目」の動きを笑顔で行うことが、相手に良い印象を与える第一歩です(7月号参照)。

 そして、この最後の「目」のときに、お客様から目を離す「目切り」を早くしてはいけません。お客様が受け取ることに集中していて、まだこちらの目を見ていないことがあるからです。お客様が飲み物をしっかりと受け取ってからCAの目を見たとき、すでにCAが笑顔ではなく、真顔に戻っていたらどう思われるでしょうか?

 「CAが振り向いた瞬間に真顔になっていた」──これもお客様の不満につながるのです。「目を留めることは心を留めること」なのです。目切りのタイミングが適切で、ニコッと笑って「ごゆっくりおくつろぎください」──これが心づかいを発揮した「渡し方」になります。

 「物」を渡すとき、お客様に向けた目は笑っていたのに、渡し終わったらすぐに真顔に戻ってしまう。そんな相手に、どんなに心づかいの言葉を並べられたとしても、笑顔や態度は、一瞬のうちに「つくりもの」だと見破られてしまいます。

 さらにもう1つ、ちょっと矛盾するように聞こえるかもしれませんが、「表情を顔に出さないこと」も大切なポイントです。

 例えば、CAに対しては、ひとりのお客様から飲み物の注文を承ったときは、必ず隣にいらっしゃるお客様にも、「何かお飲み物をお持ちいたしましょうか?」とお伺いするように指導しています。

 さて、そのとき「今は結構です」と答えられたので、注文されたお客さまの飲み物だけをお持ちし、「お待たせいたしました。コーヒーでございます」とお渡ししたとしましょう。その瞬間、先ほどお聞きしたときには「いらない」とおっしゃっていた隣のお客様が、「あ、やっぱり、僕にもコーヒーください」と言われたときに、「えっ!?」という表情をしたら、そのお客様はどう思われるでしょうか。「さっき『お飲みものいかがですか?』って聞いたのに、なんでそのとき言わなかったの?」という思いが、「えっ?」という言葉と表情に表れてしまっています。

 実際に口に出して言わなくても、少しでもそういう表情を出してしまうと、「CAに嫌な顔をされた」とお客様は笑顔の裏の不快な表情を敏感に察知し、クレームにつながってしまうこともあります。「えっ?」と思ったとしても、それを表情に出してはいけません。もちろん、口にしてもいけません。

 皆さんの職場においても、何か不快に思うことがあるかもしれません。そんなとき、「表情」を顔に出すことなく、感情をコントロールすることによって、皆さんのビジネスチャンスにつなげていっていただきたいと思います。

イラスト