カスタマーサクセスの組織づくりの“順序”
「顧客への提供価値」の定義とは
カスタマーサクセスに取り組む企業は増えているが、“カスタマーサクセスの組織づくり”に関しては模索段階にある企業が多い。そこで、SaaSビジネスにおけるカスタマーサクセス部門の立ち上げからLTV(Life Time Value)を最大化する事業開発、組織開発について解説する。第1回目となる今回は、「顧客への提供価値を定義する方法」の解説だ。
カスタマーサクセスは、「プロダクト導入後の顧客支援」が対応領域であるが、営業の一部からサポートのプロセスまで担うことが多いため、「なんでも屋」に陥る傾向がある。しかし、適切なサクセスを提供する組織づくりには、基本的な考え方とその順序が存在する。今回は、「カスタマーサクセス部門の立ち上げ」におけるフレームワークを解説。カスタマーサクセスをどのように定義し、組織化および拡大するのか、「収益を生む」カスタマーサクセス部門を組織化するうえで欠かせないポイントを解説する。なお、本連載におけるカスタマーサクセスとは、サービス導入後、能動的に働きかけ先導することで顧客のLTVを最大化する役割を指す。
はじめに、カスタマーサクセス部門を立ち上げ、LTVを最大化するうえで押さえるべき4つの要素がある(図1)。それが、(1)いかに顧客への価値を定義するか、(2)いかにオンボーディングを設計できるか、(3)いかにオンボーディング後の実務を型化し、採用・育成により利益を拡大できるか、(4)いかに組織としてのビジョンを打ち出し、収益性を確立できるかだ。この4つは順番が重要で、まずは「顧客に提供したい価値は何か」「提供したい価値と顧客の現在地の差をどう埋めるか」を考えることからはじめる。これら4つを順に定めていけば、カスタマーサクセス部門単体でも売上拡大を担うことが可能となるはずだ。
提供価値の定義と戦略立案
カスタマーサクセス部門が提供すべき価値を定義し戦略を立てるうえで有効なのが「CSモデルキャンバス」だ(図2)。これは新規事業の立ち上げや既存事業の拡大時に事業戦略を考える際に使われる「リーンキャンバス」や「ビジネスモデルキャンバス」をカスタマーサクセス用途に改良したものである。主に、誰に、どのプロダクトあるいはサービス(人)、方法、組織で価値を提供するかを1枚の絵で表現でき、基本的な戦略が見えてくる。例えば、「コールセンターが持つ顧客データ(音声や対応履歴)を活用して商品を改善する」という提供価値を目標としているのに、現状は「コールセンター業務の効率化のためのチャットボットを提供している」企業であれば、業務効率化SaaSプロダクトという現在地と、成果向上コンサルティングという目標地とのギャップを埋めることがカスタマーサクセスの基本戦略となる。
CS戦略を一枚で表現する
CSモデルキャンバスで基本的な戦略が見えてきたら、プロダクトの提供価値と自社が顧客に提供したい価値をどのように接続するか、ステップで考える。これを「カスタマーサクセスロードマップ」と呼ぶ。これにより、カスタマーサクセスとはプロダクトの提供価値と企業が提供したい価値をつなぐ役割であるということが明確にわかる。このカスタマーサクセスの方向付けができたら、実現のために必要な順にオンボーディング、アダプション、エクスパンションを考え、それぞれの完了定義、アクションを明確にしていく。それができたら、まずは最低5社のクライアントを成功させるようリソースを集中し、導入事例を獲得する。はじめから全顧客に満遍なく提供することは、失敗原因となりやすいため注意が必要だ。
以上がカスタマーサクセスフレームワークを使った部門立ち上げ方法の1つめイシュー「顧客への提供価値を定義する方法」である。次回はカスタマーサクセスロードマップに沿ってどのようにオンボーディング設計をし、業務の型化と採用を通して拡大していくかを解説する。
(2024年1月号 月刊「コールセンタージャパン」掲載)