毎日できるメンタル・ケア 第5回
涵養豊かな森で育てる
著者:きゃりあす 奥 富美子
この著者の講座はこちら
職業相談員をしている人に「コールセンターの求人は紹介することをためらう」と言われたことがあります。
「工場閉鎖で突然仕事を失った人とか、ご主人が職を失ったので専業主婦だったお母さんが働かなければならないとかで、仕事を探している人はたくさん来るんだけど。コールセンターはちょっとねぇ……。ずっとクレーム受けてるなんて、大変じゃない。入ってもすぐに辞めちゃうだろうから」とのことです。
確かに、仕事である以上、大変なことはあります。
しかし、コンタクトセンターで働くことには、面白いこと、楽しいことも多くあります。
うれしかったり感動したりすることもあるのに、そのことはあまり知られていません。
例えば、コンタクトセンターは、「涵養(かんよう)」で人を育てる職場だということも知ってもらいたいことのひとつです。
涵養とは、『銀座みつばち物語』(田中淳夫著・時事通信社刊)によると、「ミツバチの受粉により多くの樹木が草花や実をつけ、その身を食べる動物が育つことで涵養豊かな森が生まれます。そうなってくれば、湧水が急速に減っている里山にも恩恵が及びます。川が豊かに、そして海までも変わるのです」と説明されています。
コンタクトセンターで「ありがとう」が行き交う雰囲気は、まるでミツバチが花々の間を飛び交うようではありませんか。
涵養豊かな森の木々は、働く人々。里山、川、海は、センター全体や他部門を含めた会社、お客さまや社会かもしれません。
コンタクトセンターで働く人は、「水が自然に沁み入るように、無理せずゆっくりと養い育てること=涵養」で育っていきます。
もちろん、次々と入るコールは待ったなしですが、お客さま1人ひとりとの対話や業務経験を積み重ねることで、コミュニケータは少しずつ成長します。
すべての経験が栄養となる仕事です。
リーダーやSVにとっては、「コミュニケータを指導すること」が自身の成長にもつながります。
例えば、「~ができてない」とダメなところを指摘するだけではコミュニケータはできるようにならないので、「どう教えれば分かりやすいか」「どうすればできるようになるか」を考えるようになります。
また、コミュニケータから報告や連絡を受ける時に、要領を得ない説明でイライラとする瞬間がありますが、聴き終わるまで数秒「待つこと」を覚えます。
『育てたように子は育つ』(相田みつを書・佐々木正美著・小学館文庫刊)の一節に、「子どもに限らず草花でも農作物でも、何でも育てることが上手な人は、待つことが上手な人だと思う。待っていることに喜びや楽しみを感じていられる人である」という言葉があります。
コンタクトセンターには、「涵養」があります。じっくりと人を育てる職場です。
(コンピューターテレフォニー2014年4月号掲載)
この著者の連載一覧は
こちら
この著者の講座は
こちら