クレーム対応のレシピ 第14回
“いきなりお詫び”では収束しない!
「まず100秒聞く」で信頼関係を構築する
著者:
JBMコンサルタント 玉本美砂子
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臨床医の世界では、「100秒間ルール」というものがあるそうだ。診断ではまず最初の100秒間、患者の話をじっくり聴くべき、ということらしい。 ところが現実には、患者の“自己申告制”であるケースが多い気がする。「どうされましたか?」「風邪を引いたようです」「風邪ですね。ではお薬を出しておきましょう」「頭が痛いです」「頭痛薬を~」「手遅れですか?」「わかりません。しばらく様子を見ましょう」――こんな調子だ。
私の通う医院は、100秒間ルールを厳守しているようだと感じる。
最近、年のせいか身体のあちこちに故障が増えているように感じ、病院に行く機会が増えた。先日は腰がなんとなく重くて痛いため、仕事を終えて整形外科へと足を運んだ。ドクターは私の話をじっくり聴いて、途中で質問を投げかけながら心情を察してくれる。結果、出された処方箋は湿布薬であったが、ありがたくいただき医院を出た。
患者との信頼関係の構築、気持ちの理解、状況の把握には最低100秒間が必要とのことだが、これはクレーム対応のプロセスにも当てはまる。
顧客の申し出に対し、「この件は○○にご相談ください」「私どもでは○○についてはいたしかねます」などの“お断りトーク”しか持ち合わせていないとしたら、それは未熟あるいは不誠実な医師の処方箋のようなものだ。「腰が痛い」と聞いて、共感や踏み込んだ質問もなく、すぐに「では、湿布薬を」では、患者はがっかりするだけではなく、診断に対する不信感を抱くこともある。
クレーム対応では、まず最初に、(内容はもちろん)心情を把握し、共感し思いを共有することが不可欠だ。このプロセスを省くと顧客との信頼関係は構築できない。お互いの関係を構築した上で、ミドルトークに入り「お話しはもっともでございますが、この件につきましては○○にご相談いただけますか」と顧客の気持ちに寄り添いながら結論を伝える。さらに、エンドドークでは、具体的な対処法とお詫びのトークで終話する。
“いきなりお詫び”で、クレームは収束しないのだ。共感もせず質問することもせずに、バッサリと「この件は○○にご相談ください」では決して納得できない。どれだけ共感してもらって質問してもらっても結論が同じであることを知っている顧客であっても腑には落ちないだろう。
さて、かの腰の痛みは、ドクターにしっかりと話を聴いてもらい共感してもらったせいか、医院を出る時にはすでにやわらいだ気がする。“気のせい”でわざわざ病院に行ったのかと笑われるかもしれないが、「病は気から」という言葉もある。
これは、クレームにも言えるだろう。「クレームも気から」――物理よりも心理、物よりも気持ちは顧客サービスの世界では原理原則である。
(コンピューターテレフォニー2012年5月号掲載)
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