今日から始めるメンタル・ケア One Point Lesson 第5回
「聴く」を意識する
著者:きゃりあす 奥 富美子
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「小さなモモにできたこと、それはほかでもありません。相手の話を聴くことでした。(中略)モモがそういう考えを引き出すようなことを言ったり質問したりした、というわけではないのです。ただじっと座って、注意深く聴いているだけです。(中略)モモに話を聴いてもらっていると、どうしてよいかわからずに思い迷っていた人は、急に自分の意志がはっきりしてきます。引っ込み思案の人には、急に目の前が開け勇気が出てきます。不幸な人、悩みのある人には、希望と明るさがわいてきます」
ミヒャエル・エンデ作『モモ』の一節です。話を聴いてもらうだけで、こんなにも人がイキイキとしてくるのなら、「話を聴く」ことをもっとしていきたいものです。
ところが、実際に私たちの職場で行われている「聴き方」には、次のようなものが多くありませんか。
たとえば、ある日コミュニケータが直属の上司であるSVに「お話があります。」と声をかけます。
SVはコミュニケータの深刻そうな表情から、「今日中にちゃんと聴かなきゃ!」と察します。
別室に呼び、面談を始めると、コミュニケータが、「辞めたいんです」と言いました。
さて、このあとSVは何と応答するでしょうか。
「なんで?なんで?なんで辞めたいの!?」と責め立てるように質問して返事を迫る。
あるいは、「え~、そんなこと突然言われても・・・。いま、うちのセンター、人少ないんだから…」と話の主役が自分に入れ替わる。
他にも、「まだX年でしょ。あと少し頑張れば××ができるようになるから、その力をつけてから辞めても遅くないんじゃないの?その方があなたのためよ」と要らぬアドバイスをする。
果ては、「この不景気に何言ってるの!?ここ辞めたって、すぐには仕事みつからないよ。世の中そんなに甘いものじゃないんだから。」と説教をしたり、「ふ~ん、分かったよ。じゃあ、今日の帰りにパ~ッと飲みに行こうか!たまには気晴らしもしないとね。」とごまかしたり……。
いずれも、コミュニケータの話を「聴こう」としていません。
「聴いてほしい」気持ちをまったく受け止めていないのです。
忙しい日常では、つい、こうした聴き方をしてしまいがちです。
人は、興味を持てない話や、自分にとってマズイと感じるような話は聴きたくないものです。
相手の言葉を「そのまま」聴かず、自分の都合のいいように聴こうとします。
コミュニケータが話す事柄には、その背景に「気持ち」が存在します。
気持ちを受け止めてから、その事柄についてどうしたらいいのか話し合う、という順序で聴きます。
ちゃんと聴ければ職場が変わります。
モモのように、「ただじっと座って、注意深く聴いているだけ」を意識して実行していきましょう。
(コンピューターテレフォニー2013年6月号掲載)
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