クレーム対応のレシピ 第29回
誠意を言葉で伝えることが大切
心のガードを開く「思いやり」
著者:
JBMコンサルタント 玉本美砂子
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私事で恐縮であるが、我が社は先日、熊本市にコンタクトセンターを開設した。
オープン記念としてささやかなパーティを開き、お世話になった方々を熊本に招待した。
ところが、前日から台風に見舞われてしまった。はるばる沖縄から来ていただく方もいる。
予定通りパーティを実施すべきかどうか迷った結果、残念だが中止の連絡をした。そのとき、たいへん心のこもったメールの返信をいただいた。
「いつもお世話になっております。台風きましたね。ご丁寧に連絡を頂きましてまた適切なご判断に感謝いたします。風水学で風は良縁を運ぶもの また易学で雨は実りを現すらしいです。大自然の 力が熊本カスタマー・ディライトセンターの今後の成功を後押ししてくれているそうですね。お喜び申し上げます」
感動して涙が出そうになった。
普通、「了解しました。ではまた次の機会で~」でもよいものを、自然現象が要因だとはいえパーティを中止して恐縮している私に「風水学」「易学」を引用しての心遣い。
“人の気持ちを思いやる”とはこういう配慮のできることだとつくづく思った。
「了解しました」だけでは、こちらは相手が本当はどう思っているかを詮索することになるが、こう書いていただいたら腹の内を探る必要などない。
何年か前、私は保険会社に対してクレームを言い、解約を申し出たことがある。
そのときに対応してくれた方は、とても物腰がやわらかく、親身な態度で応対してくれた。
こんなに自分の気持ちがわかってくれるのかと感心したものだ。
私の言いたいことをすべて共感してもらえたと感じた。
普通なら「今、解約するのは損ですよ」と持っていくところを「本当に申し訳ございませんが、何年も保険をかけていただいて、これだけしか返戻金が出ません」と誠意のこもった回答をいただいた。
結局、私はその姿勢に感銘して保険を継続した。本末転倒だが結果には満足だ。
いったん「人間関係の構築」に時間をかけると、その後の展開はスムーズに行くことが多い。
逆に、「YES・NO」の結論を急いだために、トーク時間がかえって長びくこともある。
クレームを言う顧客は、どこか「負けてはいけない」と構えている。
ボクシングのガードのようなものだ。
その心のガードを溶き、人間関係を構築する時間をとることが実はゴールへの早道だ。
それを勘違いして、さっさとあしらおうとするとクレームはもつれてしまう。
「急がば回れ」の精神で、まず十分に人間関係が構築できるようなトークがほしい。
そのためには、人の気持ちを思いやるということを意識したい。
気持ちが満たされるのは、思いやられる方だけではない。
思いやる方もまた、とても気持ちがよくなるものだ。
(コンピューターテレフォニー2013年8月号掲載)
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